獣医保健看護学シンポジウムに参加して

関東支部 実験動物福祉担当:猪股智夫・小松輝夫

 平成2232628日に第149回日本獣医学会(日本獣医生命科学大学にて)が開催され、会期中に獣医療技術者、通称、動物看護士の国家資格化を目指した「獣医保健看護学シンポジウム」が開催された。現在、この分野に関する教育機関は4年生大学4校、短大1校、専門学校約50100校、その他、把握しきれていない機関も存在する。まだ国家資格ではなく、一定の教育課程を経た後、各教育機関が認定した資格が授与されることになっている(有資格者は推定20,000名)。その呼称も複数存在し、動物看護士、動物看護職、獣医療技術者、動物衛生看護士などと呼ばれているのが現状である。
 シンポジウムでは、獣医学領域における「獣医療技術職(農水省呼称)の必要性について」の導入に続き、農水省より「獣医療技術職の現状と課題」、そして小動物診療、産業動物診療、産業動物臨床検査、家畜衛生領域、公衆衛生領域、実験動物領域といった各分野から獣医療技術職の必要性について熱く語られた。
 つまり獣医療技術職を欧米並国家資格にする上で、 現状の説明および把握といった内容であった。たとえば米国では、獣医看護士については24年の教育の後、国家試験と各州の試験に合格する必要がある。同様に英国では英連邦の公的資格であり、豪州では各州の公的資格となっている。獣医看護士の業務内容は、「獣医師の監督の下で、採血、臨床検査、麻酔、手術助手等の獣医療行為ができる。ただし、診断、手術、予後判定、薬剤処方はできない」という。我が国における人の看護師と同様で、医師の指示及び責任の下に、静脈採血、心電図等の検査、投薬注射等の医療行為の実施が認められている。これと同様な業務を目指すものである。
 しかし、農水省の見解としては、平成17年に小動物獣医療に関する検討会の報告にあるように1)獣医療補助者の行うことができる業務範囲が明確かされていない。2)全体として規制緩和の流れにある。3)教育水準の平準化、つまり欧米並の24年の教育や資格や名称の統一化がなされていないなのど点を考慮すると現状では困難という見解が示された。
 追い風になると思われるのは、ICH(注1)のガイドラインにおいて3Rsを促進:使用動物数の削減、国際間における試験軽減方法が検討されていること。これに伴い我が国においても1)バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価、2)医薬品の遺伝毒性試験に関しする改正案などが検討されている。これと同様にOIE(世界動物保健機関(注2))が発表した実験動物福祉綱領には、1)国(公的機関)が実験動物福祉の責任者となること。2)獣医師が技術者、科学者とチームを組んで実験動物福祉にあたることなどが盛り込まれている。OIEに加盟している我が国では、この綱領を遵守するために国内法改正も必要になると言われている。この点を考慮すると実験動物技術士(現行は社団法人日本実験動物協会の認定資格:実験動物技術者)の成立も可能性が非常に高いと思われる。
 最後に、人の医療に関わる歯科衛生士(日本歯科衛生士協会)、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(東洋療法研修試験財団)は国家資格であるが、試験や資格認定は、民間団体(他にも幾つもある)が実施している。
 実験動物技術者や動物看護士は、動物に関する教育を受けたプロである。人の医療においても看護士が存在するように、獣医師だけでは動物医療や動物福祉をカバーすることはできない。これらの職種が国家資格となるよう今後とも努力することが必要であり、このようなプロ集団を構築することが動物に対するほんとうの福祉につながると思う。


1ICHInternational Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(日米EU医薬品規制調和国際会議)の略称。その目的は、各地域の規制当局(日本では厚生労働省)による新薬承認審査の基準を国際的に統一し、医薬品の特性を検討するための非臨床試験・臨床試験の実施方法やルール、提出書類のフォーマットなどを標準化することにより、製薬企業による各種試験の不必要な繰り返しを防いで医薬品開発・承認申請の非効率を減らし、結果としてよりよい医薬品をより早く患者のもとへ届ける。

2OIEOffice International des Epizooties(以前の国際獣疫事務局、現在の世界動物保健機構)は、1921年にフランス、オランダ、スイス等28カ国が国際間の動物伝染病問題を解決するために発起し、1924年に設立。現在168カ国が加盟。近年ではH5N1鳥インフルエンザやBSEなどに対応している国際機関。




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